武蔵
e0149261_225065.jpg






吉村 昭 著作 『戦艦武蔵』 読了。


面白い。
傑作という作品があるとしたら、この『戦艦武蔵』は間違いなくそう呼ばれるだろう。

世界最大の巨大戦艦が企画され、製作されていく描写が凄い。
中でも圧巻だったのはやはり進水だった。


船台と呼ばれる台の上で舟を作り、進水時には木の上を滑らせて進水させる長崎独特の進水作業。

徹底した情報管理で進水までは完璧に近い極秘度を保っていたのに、
進水時にその姿を晒しては意味が無い。

(どの位徹底していたかというと、領事館の前に巨大な倉庫を作って造船所が見えないようにしたり、
山登りだろうと高台から造船所を見ている人間は即逮捕。
非人道的な拷問をして市民に恐怖心を植えつけた。
また「スパイが潜入している」とデマを流して、市民たちに隣人を売らせた。などなど)


なので進水がいつ行われるのかを隠すために、
進水式に参列する海軍指揮官は私服で、しかも分散して長崎に入り、

進水する日に大規模な戦闘演習を行うことで他国の意識をそちらに向けさせ、
さらに1800人の海軍兵士で対岸の長崎港を10メートル間隔で埋め尽くし、
チラリと海を見ようとする市民は即逮捕する徹底ぶりだった。

その時期、長崎市内を歩く市民はみな下を向いて歩いていたという。
どこまでが真実なのかは解らないけど、とにかく今の長崎からは想像出来ないくらい強烈だった。


無事戦艦の姿を晒さずに進水した戦艦武蔵だったが、
至上最大の戦艦は伊達じゃなく、武蔵の進水で2m弱の津波が起こったという。


しかしその末路が悲しい。

この本を読むと、無謀と言われながらも数々の問題を解決しながら
作られた前人未到の戦艦武蔵は生きている巨人ような錯覚を覚える。

その輝かしい誕生と、悲し過ぎる末路。
涙なんかは絶対に流れない。

これを読んだ後に感じるのは強烈な吐き気だ。


この知られざる長崎の過去を話してくれた人々と、
徹底してリアリティに拘って執筆した作者を賛美したい。

素晴らしい作品だった。
[PR]
by rawworks | 2010-05-04 02:51 | X2
<< 川内清通 写真展 『女性』 第二章 目線 >>



RAWWORKSの川内清通です。長崎を拠点に活動する劇団F's Company所属。 rawworks.kawachi@ gmail.com
by rawworks